先日、一足早く、短い夏休みをとらせていただきました。
写真は、熊野の広大な海、午前4時。
日の出のおよそ1時間前です。
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場所は、ちょうど5年前にも訪れた南紀勝浦の休暇村です。(5年前は、→何が、永遠が、海と溶け合う太陽が。)
妻の実家にも近い、素晴らしいローケーションの宿泊施設です。
先にこの紀州へ帰省していた家族を追って、僕もここにやってきました。
今回の休暇。お風呂も、食事も、海水浴も…全部もちろん楽しみではありましたが、じつは僕のいちばんのお楽しみは何と言っても、この写真のような夜から朝にかけての「海と空」を見ることでした。
何をかくそう、僕はかつて天文少年でした。
主な恒星や、星雲、星団の位置関係は全部あたまの中に入っていて、観測用の双眼鏡や手作りの赤道儀をつかって夜な夜な空を見上げる日々だったものです。
でも、僕の少年時代からすでに地元名古屋の空は天体観測には全然不向きでした。だから、ときおりの旅行先での暗い夜空が楽しみで仕方がなかった…そんな思い出があります。
そしてそれは、今も同じ。
旅先では、夜がふけると決まって外にひとりで出かけてしまう…。そんな習性をいまだに持っているのです。
この日は、素晴らしい夜空でした。
星座が判別できないくらいの沢山の星たち、白いヴェールのように天空を横断する「天の川」、そして流星や人工衛星もいっぱい観測できました。
僕以外誰もいない宿舎の屋上で、首が痛くなるまでぼんやり上空を見上げておりました。(怪しいね^^)
「星空」は、ほんとうに素敵ですね。
でもじつは、僕には、その星空よりも好きなものがあります。
それは、
この写真のような「夜明け前の紺色の空」。
少しだけ夜明けが近づいてきて、夜の暗い空がほんのり明るくなりかけた、そのときの空。
星が肉眼で観測し難くなる瞬間の空です。
天文用語では、「天文薄明」といいます。
あんなに沢山あった星たちが、残らず消えて見えなくなっていく、その瞬間。
水平線と空との境界線が、突然くっきりと現れる、その瞬間。
ほんとうに一瞬の出来事です。
このあと、すぐに「朝」がやってきてしまいます。
日の出時刻が近づくと、急に空は白く変わり、まるで世界はもう何でも見えるかのような明るさになっていきます。
何もかもが見えてしまう、
そんな状態よりも、
急に星が消え、
そして空が朝に向かう直前の「天文薄明」。
むしろ、そこには何もない、何も見えない..。
それが僕がとってもとっても好きな「空」の一瞬です。
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この天文薄明の直後に、空が、そして目に見えるものすべてが青く染まる「ブルーモーメント」という瞬間のことも書いておきましょう。
この現象は、とくに空気の澄んだ季節(秋など)によく見られます。もちろん東京でも体験できます。
季節的には少しハズレているものの、今回の紀州の朝でもちゃんと体験できました。
「真っ青」ではないものの、海も雲も岸壁の岩も一瞬すべてが「濃紺」に染まりました。
美しい瞬間でした。
すべてが濃紺に沈んでいく風景の中で、ぽつんぽつんと、小さく明かりをつけた船が微動だにせず浮かんでいます。漁の開始時刻をじっと待つ、地元の漁船群です。
海には波もなく、時間がほんとうに止まってしまったかのような、不思議な時間。
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そして夜は突然終わります。
空は一気に白くなり、ついに5時09分ちょうど。
時刻どおりに、太陽が水平線に赤い線をすうっと描いたそのとき、待機していた沢山の漁船たちが一斉に海の上をすべるように動き出しました。
僕も、家族の待つ客室へと、戻ることにしました。
僕のとっておきの時間が終わり、そして家族との時間へ。
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そしてまた、このあと駆け足で休暇を過ごし、数日後東京へと戻ってまいりました。
素晴らしい夏休みでした。ありがとう。