世界でただひとつのオリジナル家具。
そこに在るべくしてあるデザインと素材感。
「家具」というよりも、建築の中にある「もうひとつの小さな小さな建築」。
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僕の設計する住宅では、「オリジナル造り付け家具」が定番です。
リビング、キッチン、玄関、寝室、そしてトイレにまで..
それぞれの場所で、それぞれの機能とデザインをシンプルに追求します。
その「家具」のデザインや作り方には、建主さんごとに当然パターンが違います。
ライフスタイルや好み、予算や精度などによって、作り方を少しずつアレンジするのです。
大きく分けて、オリジナルの特注家具には2つの作り方があります。
ひとつは、専門の家具職人さんが工場でつくって、現場に搬入する方法。
そしてもうひとつは、建設現場で大工さんや建具屋さん、電気屋さんなどが力を合わせてつくる方法。
キャビネット型のような箱家具や、厳密な精度が必要なもの、または特殊な材料を組み合わせるものは前者(家具工場)に発注することが多く、掛かるコストは少し高めです。
それ以外の場合、
例えばあまりコストを掛けたくない場合(つまり、ほとんどの現場ではそうなのですが)や、空間になじませる雰囲気のモノをデザインした場合は、工事現場で各職人さんたちの力を結集してつくります。
現場で職人さんが手づくりする「造り付け家具」は、
家具工場でつくった場合よりも少しだけ「手作り感」があって、「家具」とも「小さな建築」とも、どちらとも言えるような、いい感じのモノに出来上がります。
冒頭の写真は、「HOUSE aeroccino (屋上テラスとリビングが つながる家)」のキッチンとダイニングを隔てるための「家具」。現場で大工さんに作ってもらいました。
ローコストな建築構造用の「ラーチ合板」を利用してつくったBOXを、キッチンとダイニングの間に積木遊びのように重ねて置いて、本体とガッチリ固定したものです。
塗装は、オスモカラー。
ラーチ合板独特のラフな木目をいかした仕上です。
BOXは、ダイニング側とキッチン側からそれぞれ収納として使います。
ずらして積み上げた箱と箱のあいだから、向こう側とコミュニケーションをとることができて、食材やお茶の受け渡しなども自然に行なうことができます。
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「家具」は、ただ収納機能だけを満たせばいいわけじゃありません。
建築の一部として、住む人の心地いい生活をサポートする装置であるべきです。
いわば、「環境装置」。
インテリアの居心地をコントロールする、とても重要なものです。
たとえば、「住みながら素敵な家具を買い足しながらインテリアを作っていきたい..」。
そんなふうに住む人が考えている場合、本体工事でつくる「造り付け家具」はあまり主張しすぎないほうがいい。むしろ、住む人のライフスタイルを盛り上げてくれる脇役(背景)であったほうがいい。
それは、建築本体でも同じ。
僕はこう考えます。
「建築」は、
それ自体が強く何かを主張するものではなくて、住む人と周辺の人たちの生活をサポートするための環境をつくるものであるべき。
そのために試行錯誤を重ねて「デザイン」が生まれる。
主張するためのデザインではなくて、主役である「人」をサポートするためのデザイン。(念のため補足すると、ただ地味なデザインにするだけ..という意味じゃない。そんな単純な話ではないです。)
「建築」と「造り付け家具」は、まったく同じ思想の上にたって構想されているのです。