ウッドデッキのある家の設計。魅力とコツと注意点。(実例あり)

加藤幸彦(エス)です。
ウッドデッキのある家を数多く設計しています。
この記事では、その方法をご紹介。

プライバシーの守られたアウトドアリビング、
空を満喫できる開放的な場所、
周辺の緑を室内に取り込むためのインターフェイス。
…様々な手法により、ウッドデッキのある家を考えます。

疑問点、ご相談は本文末尾のリンク、エスの公式サイトからお送りください。設計のご依頼は随時受付中です。

 

 


 


1. 建ぺい率と容積率について

都内の土地の条件が厳しいところで作る場合、建ぺい率も容積率もギリギリで建てることが多いです。
そんな状況でプラスαとしてのウッドデッキをつくるにはどうしたらよいか?は悩みどころ。

以下にまとめます。

建ぺい率に含まれない方法

1) 屋上につくる場合。建物本体の外周ラインからはみ出さないようにつくればOK。部分的なはみ出しはOK。ただし、下記(2)にあるように「片持ち構造」とすること。建物外周ラインのデザインがポイント。

2) バルコニー型。建物外周ラインから片持ち構造(はみ出し)。本体から突き出すようにつくること。ウッドデッキを支える柱のない形状で。ただし建ぺい率に参入しないのはバルコニー先端から1mまでの範囲だけです。

3) すのこ型バルコニー、2階レベルでつくるウッドデッキ。隙間を開けてウッドデッキ材を張ること。つまりウッドデッキがその下の空間の「屋根」の役割にならないようにする。ただし地域ごとに行政判断が異なります。要注意。

4) 庭に作るウッドデッキ。ウッドデッキ床面レベルを地盤面からの高さ1m以下にしたもの。大きな屋根付きはダメです。(小さい屋根なら一部可能)

容積率に含まれない方法

1) 屋根のないウッドデッキ。つまり雨ざらしになっていれば勿論OK。屋上テラスや、雨ざらしの2階バルコニーが該当します。

2) じつは屋根付きウッドデッキも可能。たとえば開放性のある奥行き2mまでの屋根ならば、半屋外的なアウトドアリビングとして楽しめます。

3) タープなど随時撤去可能で仮設的な屋根をかぶせる方法もOK。一時的な雨露をふせぐものとしてください。

 
実際には、上記要素に加えてさらに細かな規定が付随します。
それらをうまく組合わせて「複合的な法解釈」で建ぺい率と容積率をクリアするのが私の手法です。
 
 
次に具体的な事例と、そのコツ紹介します。


2. 屋上のウッドデッキテラス

屋上ウッドデッキテラス。
存分に空を満喫できる空間です。

これまでの事例では、
・旗竿土地
・都心の住宅密集地
などで、空に向けて開放感を得る屋上テラスをデザインしました。

設計事例

ハウス・エアロチーノ(杉並区)

ハクサンリノベーション(文京区)

..など


屋上テラスのある家
エスの作品集へ
http://www.sp-n.gr.jp/category/saku/roof

 
さて、ここで屋根の上につくる場合の注意事項。
 
 
デッキ材の固定方法

デッキ材は、直接屋根の上にビスや釘で固定することはできません。屋根に穴をあけることは厳禁ですよね。
まずデッキ材を固定するための下地のフレームを屋根の上に組み立てます。そしてその上にデッキ材を並べて専用ビスで固定していきます。つまり屋根から浮かしてウッドデッキ床をつくる。ウッドデッキ床と屋根本体のあいだには10cmくらいの隙間ができていますので、そのあいだ雨水が通ります。
ここで要注意。フレーム材は雨水の流れる方向と平行にすること。雨水をせき止めないようにするためです。それと、フレーム材は隠れて見えないからといって安い木材を使わないこと。デッキ材同等かそれ以上の耐久性のある材にすること。雨水に直接触れますから、腐りやすいコンディションにあります。
 
 
屋上テラス・階数の取扱い

雨ざらしの屋上ウッドデッキテラスは、建ぺい率にも容積率にも参入されません。
ただし、この屋上まで行くルート(階段)の取扱いに注意してください。屋上までの階段が室内の場合、当然容積率に当然参入されますが、これが「階数」にカウントされてしまわないように要注意です。2階建て+屋上テラスで設計したつもりが、この階段が「3階建て」と認定されてしまうと、構造計算や防火仕様を3階用のオーバースペックなものになってしまいます。予算オーバーになりかねませんね。


3. ウッドデッキバルコニー(2階)

2階リビングルームとつながるウッドデッキです。

エスでは、大きなテラスサッシをつかって室内と一体化したアウトドアリビングが数多くデザインしました。

設計者として完成したお宅へは時々訪問させていただくのですが、ここで飲むビールは本当にウマい!のです。

設計事例

空のバルコニー(調布市)

さくら*ファクトリー(杉並区)

..など多数


ウッドデッキバルコニーのある家
エス作品集へ
http://www.sp-n.gr.jp/category/saku/wooddeck

 
では、ビールを美味しくいただくために注意事項を押さえておきましょう。
 
 
室内床とデッキ材との段差

室内床との段差をどうするか?をよく考えること。
内外フラットにして室内とスムーズにつなげたり、あえて段差をつくって縁側のようにしたり、エスでは色々なパターンで設計しています。
 
 
バルコニー型の建ぺい率

本体からの片持ち(突き出し)でつくれば、バルコニーの先端から1mは建ぺい率に参入されません。屋根付きのバルコニーでも同様。屋根が本体からの突き出しであれば、建ぺい率に入りません。ただし、1mの奥行きではちょっと狭いですね。そこでうまく数値のやりくりをして心地よい広さのバルコニーを設計します。(ここはエスの独自ノウハウ)
または、上で書いた「すのこ型バルコニー」ならば、すべて建ぺい率から除外することが可能です。ただし、地域の行政判断によって全然NGなことが多いので、事前調査は必須です。とくに注意。
 
 
バルコニー型の容積率

屋上テラスと同様に、屋根がないバルコニーであれば容積率に参入しません。上で書いたとおり屋根付きアウトドアリビングも可能。ただし法的な「開放性」に十分注意して設計すること。
さらに、「開放性」は「心地よさ」に直結する要素です。法的なことだけでなく居住性のデザインにもしっかり留意します。


4. 庭につくるウッドデッキ

1階リビングルームの場合、庭をウッドデッキ化するのがおススメ。
まるで公園のような、まるでキャンプ場のような、都会のなかの自然を満喫できる空間が出来上がります。

設計事例

木箱の森(千葉県)

ハウス・ハックルベリーフィン(小金井市)

..など


木箱の森
http://www.sp-n.gr.jp/saku/木箱の森.html

ハウス・ハックルベリーフィン
http://www.sp-n.gr.jp/saku/ハウス・ハックルベリーフィン.html

 
さて、注意点。
 
 
庭ウッドデッキの建ぺい率と容積率

うえにズラッと書いたように、屋根がなければ、開放性のある屋根であれば、建ぺい率には不算入です。さらに地面から1mの高さまでの構築物は建ぺい率に不算入ですから、ウッドデッキを高床型にして、その下を有効利用するこのも可能。
庭につくる場合は、注意点が少ないですね。
 
 
防腐対策

デッキの床下は、十分に風通しを良くする必要があります。床下に湿気がこもってしまうと、耐久性の高い材種を用いても意外に早く腐食してしまいますから要注意です。
予算があれば、床下にコンクリートやモルタルを流し込んで土の表面を密封してしまうこともひとつの方法です。
 
 
猫、その他

快適につくった場合、猫ちゃんが住みついてくれます。
またはジメジメした床下になってしまうと、その他いろんな生物が気持ちよく暮らしてくれます。
生き物ニガテな人は十分にご注意を!


5. 素材について

材種

ウッドデッキには、耐久性の高い素材をつかいます。
エスでは、北米産のレッドシダー、米西海岸産のレッドウッドなどを主に採用しています。
どちらも針葉樹。表面はやや柔らかく、加工もしやすい。素足で歩いても気持ちのいい素材です。
厚みは標準で約4cm。ちょっと厚めですが、この厚さがじつに心地いいのです。じつは足の裏はとても敏感で、足下の素材の厚みを感じ取って安心感を認識します。素足なら勿論、あるいは履物をはいていても感じるほどです。
ですから、ここは予算をケチらず、厚めの素材をつかってください。
耐久性をとくに重視する場合は、南洋材のイペ、ジャラ、セランガンバツなどを採用することもあります。これらは耐久性が非常に高いですが、値段もしっかり高い。また、材質はとても硬いため、大工さんの技術も必要です。
 
 
表面塗装について

雨ざらしの屋根のないウッドデッキテラスの場合、レッドシダーやレッドウッドは塗装は必須。高耐久の南洋材系は塗装不要ですが、色素の流出防止のためにクリア系の塗装することもあります。
屋根付きのウッドデッキも基本的には塗装をおススメ。
外装木部用のステイン系塗料(オスモカラーやキシラデコール)をつかいます。
 
 
メンテナンス

塗装のメンテナンスは、DIYでの実施をおススメしています。
塗料はネットなどで入手しやすいものです。
雨ざらしの床面は、できれば完成1年目または2年目に上塗りしておくと、そのあとの表面保持が良いようです。


6. まとめ

2010年のOPEN-G日記にウッドデッキの記事を書いて以来、メール相談や設計依頼を多くいただき、ひきつづき「ウッドデッキのある家」を沢山つくってきました。
それから10年近くたって、ようやくこの記事を全面的に書き直し、相談にお答えしたことや現場でのノウハウを盛り込んでみました。

この記事を読んで「ウッドデッキのある家をつくりたい!」と思われた方は是非、エスまでご連絡ください。
一緒に楽しくて気持ちのいいウッドデッキをつくりましょう。
そして、完成したウッドデッキで美味しいビールを飲みましょう!!(もちろんコーヒーでも^^)


一級建築士事務所エスの公式サイト
http://www.sp-n.gr.jp

 


2010年のオリジナル記事はこちら

ウッドデッキのある家、素敵だ! でも、設計での注意点あり。(2010年)


ウッドデッキ・バルコニー。
ウッドデッキを2階レベルにつくるものです。
リビングルームが外に拡張された、とても気持ちのいい空間。
エスでは、これまでに多くのウッドデッキ・バルコニーをつくってきました。
自然の中でつかわれるイメージがある「ウッドデッキ・バルコニー」ですが、じつは、都市部においてこそ、その威力を発揮するのです。
ちょっと専門的な内容もありますが、
整理してまとめてみました。


 


足触り感

植物を置いたり、ガーデンテーブルを置いたり、子どもの遊び場になったり..
その家族のライフスタイルが、にじみ出る場所です。
のんびり過ごすことは勿論、
素足で歩いたり、履物をはいて歩いたり。
さぞかし気持ち良いことでしょう。
僕は、ウッドデッキを作るとき、絶対に薄い材を使わないようにしています。
大切にしたいのは「足触り感」。
足の裏は、じつはとても敏感なもので、その足触りで「材の厚み」を感じとってしまいます。
素足でも、履物を通してでも、感じます。
そして不思議なことに、自分を支えている素材が薄いモノだと知ってしまうと、あまり心地良さを感じることができないのです。

 


建築基準法での位置づけ

さて
ウッドデッキ・スペースは、いろんな作り方があります。
屋上テラス、
バルコニー(ベランダ)、
中庭、
…など。
そのうち、広い土地を確保しにくい都市部において、
2階の高さに「ウッドデッキ・バルコニー」を作り、その下を駐車スペースや通路などに使うケースを考えてみます。

参考マドリ
「#071 せまい土地、「裏わざテラス&車庫」

比較的よく見かける解法ですが、
この方法には注意点があります。
都市部の場合、
建ぺい率ギリギリに建物をたてることが殆どですから、
「ウッドデッキ・バルコニー」は「建ぺい率から除外される」ように作ることが必要です。
(1階の庭レベルでウッドデッキをつくる場合は、そんなこと気にしなくて大丈夫です。)
そこで皆さんが知りたいのは「どうやったら「建ぺい率から除外できるか?」ということでしょう。
「雨が下に通り抜ける構造、つまりスノコ状の床」ならば、
除外できる可能性がある…というのが基本の考え方。
雨を通してしまう「非-屋根」であれば、
それは「建築物」じゃない。
よって、「建ぺい率」に含まない。
..という理屈です。
でもじつは困ったことに、
その建物をたてる場所(行政区分)によって、その判断基準がマチマチなのです。
何故なら、建築基準法ではこのことが詳しく定められていないからなのです。
あいまいな記述の条文を、各役所が独自に解釈して運用している実態なのです。
で、近年は、役所じゃなくて民間の機関でも建築審査業務を行なっています。
それらに同じ質問をぶつけても、同様にマチマチな答え。
昔から、この問題は存在していて、
各役所には、単純に「OK」か「NG」かという判断だけがあったのですが、
最近は条件規定がより具体的になってきていると思われます。
近所の役所どうしでは、できるだけ近い考え方にしていたり、大きな行政体だと若干キビシい条件が設定されていたり…。
ある種の傾向は見られるものの、やっぱり皆、ちょっとずつ違うのです。

 


実際はどうなっているか…そこが重要

たとえば、エスの近隣行政庁でのヒアリング実績(2010.5月現在)を少しだけ開示しますと..
1)地元のS区と隣のM市では、ウッドデッキの奥行き寸法2メートルで床の隙間が1cmあれば、原則として建築面積から除外できる。その基本さえ守れば、プランバリエーションも比較的自由にできそう。
2)その隣のN区とそのお隣の市では、建築面積から除外できるウッドデッキの大きさの上限が決められている。プランバリエーションも少し限定的。
3)さらに近隣のある区では、ホームページで詳しく解説していて、さらに別の裏技的なヒントも掲載。
4)多摩地方の広域を管轄する某行政庁では、なんと「原則的に、いかなるウッドデッキも建築面積に参入すべし」と。ここが一番キビシい。
5)で、民間の検査機関はといえば、非常に詳しく独自の基準を設けているところもあれば、逆に決まった考え方を持たずに、地元の行政庁の見解に従う..という姿勢のところもあります。
なかなか面白いですね。
いや、面白いっていうよりは、十分気をつけないといけない。
たとえば、新築目的で土地を購入する場合も、最初から気にしなきゃいけない重要事項だったりするのです。

 


最後に..

狭い土地でも「ウッドデッキ・バルコニー」が可能か否か。
そういうことをクリアした上で、
ウッドデッキで飲むビールは、もう格別でしょうね。
これは都市住宅のもうひとつの醍醐味です。
たとえば、この過去記事「中庭のある我が家を設計してみた」では、規制された建ぺい率ギリギリまで本体をつくって、プラスアルファの2階ウッドデッキを「中庭」のようにつくっています。
(役所には「建ぺい率除外OK」との判断をもらっている事例です。)