建物の輪郭は 暗い夜空に少しだけ溶けていく


いよいよ「小鳥が自由に飛び回る大きなリビングルーム」の現場が最終段階を終えました。そこで急遽、EOS 5DとTS-E24mm F3.5Lをレンタルして、夜間撮影です。(090928加筆)


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通常、日没の直後くらい、空がパッと群青色に変わった頃合いがもっとも「夜景写真」に向いています。
なぜなら、
完全に暗くなってしまった後では、背景の空はほんとうに「真っ黒」になってしまい、建物の輪郭は上手く写りません。記録としての夜景写真は、暗くなる前に撮るのが鉄則なのです。
ですが今回、
僕はあえて、真っ暗になってから撮影に挑みました。
非常に苦心してデザインした外観ではありますが、
この建物に込めた僕の思いは、ちょっと特別のところにあります。
何度かこのブログでも言及していますが、
建物を囲むように植えられた樹々たちが、何年も何十年もたって大きく成長し、この場所が「森」のようになっていく….そんな夢想をしています。
そしてついに、建物自身の輪郭はもう見えなくなる。
そう、僕は、建物が見えなくなってほしいと思っているのです。
建物の輪郭を見えなくしたい。
僕は普段から、むしろそんな風に考えながら設計していたのかもしれません。
人間は「カタチ」の中に住むんじゃない、と僕は考えています。
もっと得体の知れぬ空気のかたまり、「環境」「社会」「空間」…いろんな言葉で言い表される複雑な「場」の中に、人間は住むのです。
苦心してデザインした「外観」が、
周囲が真っ暗になった時に、どういうふうに見えるのか?
僕はそれを確かめたかったのです。
そして、その姿を記録におさめたかった。
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若い樹々の揺れる葉に包まれて、
建物の輪郭は
暗い夜空に少しだけ溶けていくように見えました。
窓の明かりが、暖かく光り、浮かんでいます。
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撮影を終えて、ひとりで「小鳥が自由に飛び回る大きなリビングルーム」の中に戻ります。
この日で、設計監理業務は終わりです。
1人前になった我が子を送り出すようにしんみりと建物中をみてまわります。
そして、建物に向かって「じゃあね、あとは頼んだよ…」と、心の中で独り言。
これからこの建築がこの家に暮らす家族をずっと包んでくれるように…。
ガラにもなく僕は少しだけお願いごとをして、この長くかかったプロジェクトは完了です。